今にも崩れそうな本棚の下で

漫画の感想を書いたり書かなかったりします。

天才と天才と凡人と凡人ー漫画「星明かりグラフィクス」感想

「星明かりグラフィクス」が面白かった、という話。

以下、全面的にネタバレありです。

 

2人の関係性

 

「星明かりグラフィクス」序盤の魅力の一つは、緊張感のある(という言い方が適切かは分からないが、少なくとも、単なるほのぼのとした友情ではない)2人の関係だ。

明里は、演劇学科の西川に吉持の手を握らせ、キャンプに誘わせ、ドイツ好きの小川達と吉持との学祭の企画を潰す。

バディもので、2人が当初は敵対関係にあったり、何かと衝突したりするのは、よくある話。

けれど、「表面的には友好関係にあるが、一方が他方をコントロールして利用している」というのは珍しい(気がする)。

考え方の違いからぶつかってるだけなら、お互いを尊重し合って和解することが可能だが、この形の関係は、そう簡単には正常なものになりそうにない。

そんな危うさがとても良かった。

 

百合には詳しくないけれど、多分、2人の関係を百合として見ることもできるんだろう。

アルサも含めた三角関係を見出す人もいるかもしれない。

でも、そういうところを抜きにしても、この2人の関係性は、よい。

 

天才と凡人

 

「向いてない職業なんてない」けど、「クリエイターには向いてなかった」明里。

「生活力がない 無礼に自己中 恩知らず」だが、「デザインはとびきり上手い」吉持。

結果的に見れば、吉持は天才で、明里は凡人なのだろう。

明里については、パリピリア充・ウェイ系感が強すぎて、序盤はあんまり感情移入できなかったけれど、凡人の悲しみみたいなところで感情移入してしまった。

ラスト付近の流れはずるい。

 

凡人といえば、明里だけでなく、ドイツ大好き小川くんも重要だ。

元々この漫画は好きだったけれど、小川くんが終盤で再登場したことで、この漫画が大好きになってしまった。

明里のような人脈すらなく、意識高い系の凡人っぽい彼だけど、ドイツに行く姿はカッコ良い。

何もかも疲れた明里を奮起させるのが、天才タイプの吉持やアルサではなく、小川くんだというのも、とても良い。

 

スピード感

 

全3巻は短い。

この漫画の内容なら、やろうと思えば長く続けられそうだ。

昨今の風潮なら、10巻も20巻も続けた上で、黒沢や堤のスピンオフをやったっておかしくない。

もしかして打ち切り?とも思うけど、打ち切りにしては、きれいにまとまりすぎている。

あれよあれよという間に才能を発揮していく天才のスピード感を表すには、このくらいの短さがちょうど良いのかもしれない。

 

小ネタ

 

 「明里サークル何個入ってるの?」

「貴方今までに食べたパンの数覚えてる?」

「私小麦アレルギーだから一枚も」

の流れは、

「13枚 私は和食ですわ」のバリエーションという感じ。

直後の「ムリィィィ」は、「WRYYYY」なんだろうか。

 

カフェで明里が声をかえた客は、ちゃんと学祭に来てくれている。

「でも 今の人 絶対学祭なんか来ないだろ」と言わせつつ、ちゃんと来させるのは、優しい展開だ。

 

「ほしあかり」が結成されたのと、明里が吉持を突き放して西端に行かせたのは、同じ場所、同じ星明かりの下。

かつて2人でいた場所で明里が1人になるのは淋しげでよい演出である。

「〇〇と××」で統一された各話のタイトルが、最終話で「星と明かり」になるのも、ベタだけどよい。

 

おわり