ロンダニーニの黒犬を追って、地中海に思いを馳せる
「ロンダニーニの黒犬」とは何か?
「ロンダニーニの黒犬」には元ネタがあるのか?
昔からなんとなく気になっていたことなので、少し調べてみました。
そもそもロンダニーニの黒犬(BLEACH)とは
「ロンダニーニの黒犬」とは、BLEACHにおける鬼道の詠唱の一部です。
呪文みたいなものですね。
具体的には、「縛道の九 撃」の詠唱です。
全体の詠唱としては、
「自壊せよ ロンダニーニの黒犬 一読し・焼き払い・自ら喉を搔き切るがいい」
となります。(下記画像参照)
その効果は、原作では発動しなかったため、明らかではありませんが、アニメによれば、赤い光で対象を縛るもののようです。
原作においても、縛道の一つであること、ルキアが使用しかけた状況(一護がグランドフィッシャーに捕まっている)を考えると、同じような効果だと推測されます。
ロンダニーニってなに?
最初は、「ロンダニーニの黒犬」自体に何か元ネタがあるのかと思って調べてみましたが、どうもそれ自体は元ネタが見つかりそうにありません。
そこで、「ロンダニーニ」と「黒犬」に分けて考えてみることにします。
「ロンダニーニ」で調べてみると、「ロンダニーニのピエタ」というものが見つかりました。
そもそも「ピエタ」は、「聖母マリアが、亡くなって十字架から下ろされたイエス・キリストを抱く姿の彫刻や絵画」のことを言うそうです。
(そういえば、手塚治虫の最後の作品(アイディア段階)は「トイレのピエタ」でした。)
ミケランジェロは、このピエタの彫刻を4つ制作したとされており、そのピエタの一つが「ロンダニーニのピエタ」と呼ばれているのです。
「ロンダニーニのピエタ」と呼ばれるのは、これがローマのロンダニーニ邸にあったからだとか。
スペイン語(虚、チャド)、ドイツ語(滅却師)、英語(完現術)の多いBLEACHにおいては、イタリア要素というのは珍しい気がします。
黒犬ってなに?
次は、「黒犬」です。
黒い犬(ブラック・ドッグ)については、イギリスに伝わる黒い犬の姿をした妖精。
黒妖犬、ヘルハウンド、グリムなどとも呼ばれます。
(ハリーポッターや魔法使いの嫁にも登場しますね。バスカヴィル家の犬もここから来ているようです。)
ブラック・ドッグの原型は、ギリシア神話の女神ヘカテーの眷属である猟犬だとされているそう。
また、ブラック・ドッグは、死や不吉の前触れとされることが多いようです。
伝承にあるブラック・ドッグではなくて、単なる黒い色の犬なのでは?という疑問もあるでしょう。
しかし、ブラック・ドッグは、一説には、口から火を吐くようで、詠唱の「焼き払い」と整合的だといえます。
縛道の九・撃の詠唱について考える
以上を踏まえて、「縛道の九・撃」の詠唱の解釈を考えてみましょう。
鬼道の詠唱は、そのまま読んでも意味がよく分からないものが多いところ、撃の詠唱は、まだ一応の意味が読み取れる方です。
すなわち、撃の詠唱を素直に読めば、
ロンダニーニの黒犬に対し、自壊することを命じ、(何かを)一読し、(何かを)焼き払い、自ら喉を搔き切(って自壊す)ることを命じている、
ということになります。
「自壊」は、撃の詠唱だけではなく、みんな大好き黒棺の詠唱にも出てくる言葉ですね(絶えず自壊する泥の人形)。
物である「泥の人形」はともかく、犬に自壊というのは少し違和感がありますが(語呂・語感を考えても自害で良さそう)、なぜ自壊という言葉なのかはよく分かりません。
自戒とのダブルミーニングだったりするのでしょうか…?
ロンダニーニは、上述のとおり、ロンダニーニのピエタから来ていることが考えられます。
ロンダニーニのピエタのような彫刻は、その性質上、音楽や演劇と異なり、静止した芸術であり(もちろん躍動感のある彫刻はありますがそれは別の話)、「撃」の効果と符合しています。
また、ロンダニーニのピエタは、ミケランジェロが、晩年に、身体の自由がきかなくなってからも作り続けた作品であり、イエス・キリストが「動かなくなった」状態の彫刻でもあり、身体の不自由という点でも「撃」との符合が見られます。
黒犬、ブラック・ドッグについては、死・不吉の前兆として、死の前段階である身体の不自由という「撃」の効果との一致を読み取ることができます。
「一読」については、何を一読するのかは明示されていません。
わざわざ言及しなくても明らかな読み物と言えば、the Bookこと聖書が思い浮かびます。
そういえば、「ピエタ」は、上述のように、キリスト教を題材とする彫刻でした。
「焼き払い」も、その対象が何かは明示されていません。
ブラック・ドッグが火を吐く伝承もあること、アニメによれば「撃」は赤い光を放って対象の動きを縛る縛道であることからすれば、「黒犬」が火を吐いて対象を縛る様を表しているのでしょうか。
「自ら喉を搔き切る」はそのままですね。
では、なぜ黒犬が喉を搔き切って「自壊」することが、「撃」に繋がるのでしょうか。
死をもたらす黒犬を死なせることで、対象を、死の前段階である身動きがとれない状態にできるのかもしれませんね。
以上に加えて、「『ギリシア神話にルーツを持つ黒犬が、聖書を読んで自壊する』という内容は、ギリシアの衰退とローマ帝国の繁栄を表している」というのも思いついたのですが、「撃」とは関係なくなってきているので、さすがに飛躍が過ぎるといえそうです。
なお、撃の詠唱は、七五調になっているところにも特徴があります。
自壊せよ(5)
ロンダニーニの(7)
黒犬(4)
一読し(5)
焼き払い(5)
自ら喉を(7)
搔き切るがいい(7)
黒犬が字足らずな以外は完全に七五調ですね。
「掻き切れ」ではなく「掻き切るがいい」にしているあたり、意図的に七五調にしているといえそうです。
「君臨者よ」(赤火砲、蒼火墜、双蓮蒼火墜)の例があるので、「黒犬よ」にしても良さそうなのですが、七五調が露骨になるので避けたのでしょうか。
おわりに
以上、「分かりません」だらけではありますが、ロンダニーニの黒犬、撃の詠唱について考えてみました。
詠唱の文言は、単にオサレな単語を並べただけ、「そこに意味は無いと知ることにすら 意味など無い」(BLEACH22巻)と言うのは簡単ですが、テクストについて考えてみるのも面白いのではないでしょうか。
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