今にも崩れそうな本棚の下で

漫画の感想を書いたり書かなかったりします。

全ての「ライダーベルトを買ってもらえなかった女の子」たちへ(「トクサツガガガ」の話)

先日、放送された「フルタチさん」の内容が話題になっています。

問題となっているのは、子どもの屁理屈・名言・言い訳を紹介するコーナー。
どうやら、母親が、「ライダーベルトは男の子用だから買えない」と言うのに対し、「じゃあ男の子になる」と言ってまで仮面ライダーのベルトを欲しがった女の子について、「子どもの屁理屈」として紹介したようです。
番組内容の是非については、番組を通して見たわけではないので何も書きません。
ただ、この話を見かけて連想したのが、「トクサツガガガ」のエピソードでした。
トクサツガガガは、かつての「ライダーベルトを買ってもらえなかった女の子」・「魔法少女のステッキを買ってもらえなかった男の子」にぜひ読んでもらいたい漫画なので、この機会に紹介したいと思います。
(上記の番組についてのtoggeterのコメント欄でも同様の文脈で紹介されています。)
 
以下、若干のネタバレを含みながら、トクサツガガガのエピソードを紹介します。
 
まず、「トクサツガガガ」は、特オタ(特撮オタク)の日常を描いたコメディです。
主人公・仲村叶(かの)は、隠れ特オタの26歳女性。
特撮の中でも戦隊モノを好んで見ています。
仲村は、幼い頃から特撮が好きだったのですが、「女の子らしいもの」が大好きな母親から、「女の子なのに」「もう小学生でしょ」などと言われ、特撮を見るのを許してもらえませんでした。
そこで、一時期、特撮からは離れていたのですが、大人になって一人暮らしを始めてからは、幼い頃の反動で、立派な特オタになったのです。
 
そんな仲村は、会社では、自分が特オタであることを隠しています。
その理由の一つは、特オタであることを公言することで、自分の好きな特撮が悪く言われたり、嫌われたりするのが怖いから。
仲村の恐怖感には、母親にかつて自分の趣味を否定された過去が影響しているようです(下記画像参照)。
 

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トクサツガガガ丹羽庭)第1巻(小学館)より引用)
 
そんな仲村は、ある日、ファストフード店に行きます。(マクドナルド的なところ)
仲村が頼むのは、ラッキーセット。(マクドナルドでいうハッピーセット
仲村の目当ては、おまけでついてくるジュウショウワン(作品世界で放送中の戦隊モノ)のおもちゃなのです。
その頃、同じ店にやってきたのは、小学生の女の子とそのお母さん。
お母さんは、ラッキーセットを注文し、子どもの意見も聞かず、男児向けのジュウショウワンのおもちゃと女児向けのラブキュート(プリキュア的なアニメ)のおもちゃのうち、ラブキュートの方を選びます。
これに対し、女の子は、私がほしいのはジュウショウワンの方だと主張します。
すると、お母さんは、「でもこっち(ラブキュート)もかわいいよ」「一人だけ違うと変だよ?」と言って、結局、女の子は、ラブキュートの方を選ばされてしまうのです。
このやりとりを見て、女の子に幼い頃の自分を見出した仲村。
(仲村も、黒いランドセルを欲しがったものの、母親に言いくるめられて赤いランドセルを選ばされた過去があります。)
仲村は、女の子に自分のジュウショウワンのおまけをあげるのです。
このときのやりとりがすごく良いんですよね。(下記画像参照)
 

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(いずれもトクサツガガガ第1巻より引用)
 
このシーンの仲村さんのかっこ良さ!
仲村さんが、女の子を救うことによって、かつて「ライダーベルトを買ってもらえなかった女の子」の中には、救われたような気持ちになる人もいるでしょう。
この漫画は、大げさにいえば、「〇〇らしさ」の押し付けに抗うことを描いた漫画でもあるのです。
人に「らしさ」を押し付けないように気をつけたい、また、「らしさ」やジェンダーで困っている人を見かけたら手を差し伸べたい、そんな気持ちにさせてくれる漫画なのでした。
(さすがに、赤の他人の子どもにおもちゃをあげるのは極端な例ですが…)
また、この漫画は、ストレートに書くと青臭くなるような内容でも、特撮(特に戦隊モノ)を一旦かませることで、上手くこれを処理していて、そこも好きなところです。
さらに、この漫画は、この女の子の母親や仲村の母親について、一概に悪だと決めつけて糾弾するわけではなく、そういうバランス感覚もすごく良いんですよね。
なお、本編では、このあと、更にオチが待っているのですが、そちらは購入して確認してみてください。
 
ほかにも、ラブキュート好きのコワモテの男性(通称・任侠さん)と、それを知ってしまった母親の話、仲村の特撮趣味に「いい年して恥ずかしくないの?」と言ってくる同僚(北代さん)の話、仲村と母親との確執の話など、名エピソードが盛りだくさんです。
少しでも興味を持ったら、ぜひ、トクサツガガガを読んでみてください。
(上記の任侠さん、北代さんのエピソードはいずれも3巻に収録。)
 
なお、以上に紹介したエピソードは、作品のほんの一部であり、基本的には隠れ特撮オタクコメディなのであしからず。
以下のようなオタクあるある、隠れオタクあるあるも登場します。
・カラオケでオタバレせずに歌える曲がない
・知り合ったばかりは、お互いどこまでディープなところまで話して良いのか探り合い
・休日に何してるかを言えない
・感極まるとやたら物を叩く
・ネットで感想を何万字読んでも書いても、生の感想を聞きたいし喋りたい 
・懐古怪人との戦い
・グッズは最終的にはゴミになるけど…
・ディープなオタクとの会話には通訳が必要
あるあるネタは、わりと豊富で、特撮あるあるは当然のことなが、他にも、男性アイドルオタクあるある、子育てあるある、海外アーティストあるある(?)、カラオケの廊下あるある(?)的な話もでてきたりします。
 
 また、ところどころに特撮技術の話も登場し、ストーリーと特撮技術がリンクするところも面白いのです。
 
かつての「ライダーベルトを買ってもらえなかった女の子」、「魔法少女のステッキを買ってもらえなかった男の子」へのおすすめの漫画、トクサツガガガの紹介でした。
 
一般の紹介記事としては、以下の記事をご覧ください。