今にも崩れそうな本棚の下で

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クジラックスに埼玉県警が「配慮」を求めた件の整理

埼玉県警が、漫画家(主に成人男性向け)のクジラックスに対し、漫画を模倣した犯罪が起こらないよう配慮を求めた件が話題になっています。

この件について、事実関係等を整理してみました。

 

1  事実関係

 

作品発表以前の状況

 

問題の作品「がいがぁかうんたぁ」発表以前にも、放射能検査を装って家に侵入する手口自体は存在していた。

(?  そういう情報を見かけたのですが、ソースが不明でした。)

※追記:ブックマークコメントで教えていただきましたが、こちらの事例7に類似の手口の記載があり、2011年から手口自体はあったことがわかります。http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20110721_1.html

 

問題となった作品「がいがぁかうんたぁ」について

 

クジラックスが発行した同人誌(個人誌)作品(2013)。

(商業出版されたものに比べて流通量は少ないと思われる。もっとも、違法アップロードにより広く拡散されており、作品を読んだ人数は相当数いると思われる。)

内容は、男性が、放射能検査を装って家に入り、女児に性的暴行を加えるもの。

侵入後、即座に女児を殴打し、カッターで脅す。

放射能検査が関係するのは侵入まで。)

 

問題となった犯行以前の被疑者

 

警察から事情を聞いたであろうクジラックスによれば、被疑者は、「放射能検査の手口以前にもわいせつな痴漢行為等何件もやっていた」(と警察はみている)。

 

被疑者の犯行(とされるもの)

 

放射能を調べる調査をしたいから入っていいですか」などと言って侵入。

当時中学生だった女子生徒に対し「身体検査をするね」「死にたくなければ声を出さないで」などと脅して身体を触った。

クジラックスが同人誌に描いた作品を模倣して犯行に及んだとされている。

県警は被疑者が少なくとも8件の犯行について作品の手口を真似したとみている。

 

埼玉県警がしたこと

 

①作品が模倣されないような配慮と②作中の行為が犯罪に当たると注意喚起を促すことなどを要請した。

(住所等をどうやって把握したかは不明。商業作家でもあるので、出版社等を通して本人に了承をとった上で把握した可能性はある。)

(①について具体的にどのような内容が想定されているのか、具体例をあげて配慮を求めたのかは報道等では不明)

クジラックス本人のTwitterによれば、「申し入れっていうと仰々しいけど、実際は菓子折りとお茶飲みながらもっとふにゃ~っとした会話をした」。

 

 

クジラックスの対応

 

県警の申入れを了承した。

また、「少女が性的被害に遭うような漫画は今後描かない」と了承した。

(後半は毎日新聞の報道)

 

強制わいせつ容疑の男「漫画を真似」 県警、作者に異例の申し入れ (埼玉新聞) - Yahoo!ニュース

埼玉県警:成人漫画作者に「配慮を」 わいせつ事件受け - 毎日新聞

 

2  疑問点

 

・たった1人の「模倣犯」が出たというだけで、なぜこのような異例の申入れがされたのか

・この申入れの法的根拠、法的位置づけは何か(行政警察活動としての行政指導?)

・任意の要請の形をとっているとはいえ、事実上の強制にならないか

(警察にはわいせつ物頒布等罪で検挙する権限もあることも踏まえて)

・今後も同様の申入れをしていくということだが、表現活動に対する萎縮効果が生じないか

そもそも商業作家とはいえ、成人向け同人誌の作家のもとに警察が訪問して申入れすること自体、萎縮効果が生じないか)

模倣犯が想定される又は現に生じていそうな他の作品等との違いは何か

(2時間サスペンスドラマ、名探偵コナン光市母子殺害事件におけるドラえもんデスノートナニワ金融道闇金ウシジマくん、ギャングース、各種ヤンキー漫画、各種ヤクザ・極道映画、15の夜など)

 

3  なぜそんなに心配するのか

 

正直いって、今回の申入れが直ちに不当だとか、表現の自由を侵害する、という気はしません。

ただ、心配になるのは以下のような事情からなのです。

・成人向け漫画はバッシングされやすく、規制されても規制反対の声が上がりにくいこと

( ニーメラーの「彼らが最初共産主義者を攻撃したとき」参照)

・任意と称して事実上の強制が行われる行為はこれまでも例があること

国会議員や警察には表現の自由の理解が不十分と思われる人が散見されること

 

他に懸念を表明している人達も似たようなところから懸念しているのだと思います。

今後も類似の件については注意して推移を見守りたいと思います。

 

※私自身は、成人向け漫画、特に和姦でないものはほぼ読みません。

※なお、一連の件で最大の被害者でもっともケアされるべきは、当然ながら、わいせつ犯罪の被害を受けた女性です。

それを踏まえた上で色々議論がされているものと理解しています。

 

似たような件について以前書いた記事はこち

kido-ari.hatenablog.com