今にも崩れそうな本棚の下で

漫画の感想を書いたり書かなかったりします。

なぜ「やれたかも委員会」は面白いのか

あのとき、もしかしたらあの女の子とやれたかもしれない。

そんな淡い思い出について、「やれた」か否かを判定する漫画「やれたかも委員会」。

 

cakes.mu

毎話すごく面白いんですが、なぜこの漫画が面白く、また人気があるのでしょうか?

 

※この記事には「やれたかも委員会」のネタバレを含みます。

 

1  議題・判定が絶妙

 

この漫画の基本的な流れは、

判定を求める人が、やれたかもしれない、だけどやらなかった(やれなかった)思い出を話す

やれたかも委員会の委員会、能島明とパラディソはそれぞれ「やれた」、月 満子は「やれたとは言えない」と札を上げ、委員会としては「やれた」の判定

月満子が「やれたとは言えない」理由をコメント

となっています。

 

議題の内容とこの流れがすごく絶妙なんですよね。

毎話につくはてブのコメントなどを見ると、必ず「やれた」派と「やれたとは言えない」派のコメントがあります。

それだけ両説が成り立ち得るような上手い出題をしているといえるでしょう。

 

また、判定の札が「やれた」と「やれたとは言えない」というのも特徴的です。

本来なら、「やれた」「やれない」の2択や、「確実にやれた」「やれないと言えない」「やれたとは言えない」「確実にやれない」の4択になるところ、あえて、「やれた」「やれたとは言えない」の2択にしているわけです。

(本当はそれ以外の札もあるけど、出してないだけかもしれませんが。)

ニュアンスとしては、「やれたとは言えない」の方が「やれた」より広いわけで、「やれたとは言えない」と言いやすい2択になってるんですよね。

他方で、相談者の内容は、「やれたかも」と言いやすい内容があったりするので、絶妙にどちらか迷いやすいようになっているのです。

 

2  議論のしやすさ・拡散されやすさ

 

一応、委員会の結論は出るものの、上記のように判定は分かれますし、議題も両論あり得るものが多いです。

そのため、はてなブックマークSNSでは、「自分はこう思う」と言いたくなりがち。

後述の細かな仕掛けについても、気付いた人はコメントして人に知らせたくなります。

こうした議論のしやすさ等が、漫画自体の拡散に一役かっていると言えそうです。

 

3  ちょうど良いゲスさ

 

やれた、やれない、なんて基本的にはゲスい話です。

そこに、「やれたとして、やった後にどうするか(付き合うのか)」という視点はありません。

そして、ネットユーザーなんてだいたいゲスい話が好きな人達です。(偏見)

そのゲスさが、ネット上での人気の要因とも言えるでしょう。

これが「告白したら付き合えたかも委員会」だったらここまで盛り上がってないかもしれません。

一方、内容自体はそこまでゲスいストーリーはなく、ちょうど良いゲスさだと言えます。

 

4  細かなディテール・仕掛け


また、さらっと読んだだけでは気がつかないような仕掛けがしてあるところも素晴らしいです。

 

例えば、最新の「屋上でむっちゃくちゃキスしたクラブナイト」。

 

はてブコメントを読んで気付かされましたが、この話、よく読むと、回想時は2010年、委員会開催時は2020年なんですよね。

神聖かまってちゃん(2008年結成)、ipad発売直後(2010年発売)というのもヒントですが、決定的なのは、クラブイベントのポスターです。(イベントは2010年8月開催)。

2020年といえば、東京オリンピックの年。

家族で東京オリンピックをテレビ観戦しているときに、東京で「オリンピックでも来てんの?」と突っ込んだあの頃を思い出して、やれたかも委員会に来たのでは?なんて空想が広がります。

 

また、この話の最後、月満子のコメントは、一見すると、明るい照明の下で、男のルックスの粗に気付いてしまった、というようにも見えます。

しかし、よく読んで見ると、ラスト付近の「薄暗いクラブ内では…」のコマの状況では、女性からは男性の顔は見えてないんですよね。

そうすると、「クラブ内では分からなかったところ」というのは、やりたいあまり必死になりすぎてる男性のかっこ悪さ、という解釈もできるわけです。

クラブ内では率先してダンスをして盛り上げてかっこ良かったのに、ホテルで幻滅してしまった、アパホテルの照明は、男性の必死さまで照らし出してしまった、というわけです。

 

こんな風に、色々な小ネタ・仕掛け・解釈があり得るのも面白さ・人気の要因でしょう。

 

5  月満子の魅力

 

この漫画の魅力の根幹を担っているのが月満子といっても過言ではありません。

毎回毎回、月満子がどんなコメントで「やれたとは言えない」と言うのが楽しみかさな人も多いのではないでしょうか。

ぜひ最終回は、「月満子とやれたかもしれない話」が議題となって欲しいものです。

(能島・パラディソは「やれた」判定、月満子は「やれたとは言えない」判定。月満子が「やれたとは言えない」理由を並べて立てた後に、「今後もやれないとは言ってません」と言って終わる)

 

 

終わり

 

以上、やれたかも委員会の面白さについてでした。